相続財産のほとんどが生命保険金!考えられるリスクや対処法

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相続財産のほとんどが生命保険金!考えられるリスクや対処法
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いざというときのための生命保険。身近な人が亡くなった際には、生命保険から死亡保険金を受け取るケースも多いでしょう。とはいえ「相続財産のほとんどが保険金だった!」という場合には、注意が必要です。遺産相続時に覚えておきたいリスクや対処法を紹介します。

生命保険と相続財産に関する基礎知識

身近な人が亡くなった際に、死亡保険金の受け取りが頭をよぎる方は多いのではないでしょうか。保険の契約内容はさまざまですが、非常に高額な死亡保険に加入している方も少なくありません。保険金受け取り後の相続についても、気になるところです。

生命保険と遺産相続について最初に認識しておきたいのは、「死亡保険金は相続財産に含まれない」という事実です。死亡保険金の多くには、「受取人」が指定されています。被保険者死亡によって支払われる死亡保険金は、その受取人のもとに支払われるのです。「亡くなった人が残してくれたお金」という認識も強いですが、相続財産として扱われることはありません。当然、遺産分割協議においても「対象外」と判断されます。

仮に相続放棄の手続きを取ったとしても、受取人に指定されている人が、死亡保険金を受け取れなくなる恐れはありません。生命保険の死亡保険金と遺産は、切り離して考えるのが原則です。

一方で、死亡保険金として受け取ったお金にも、相続税は課税されます。遺産分割の対象外ではあるものの、相続税の対象になる財産のことを「みなし相続財産」と言い、死亡保険金もこちらに当たります。相続人が保険金を受け取った場合には、【500万円×法定相続人の人数】までが非課税枠として扱われますが、それより多かった場合には相続税の対象に。その他の財産と合わせて相続税の基礎控除額以上になれば、相続税を支払わなくてはいけません。

相続財産のほとんどが生命保険金…リスクについて

相続財産のほとんどが生命保険金…リスクについて
相続財産のほとんどが生命保険金…リスクについて

生命保険は、「自分が希望する相手に多くの財産を残したい」と思う方にとって、非常に便利な存在です。受取人を指定しておけば、その分のお金がその他の相続人に渡る恐れはありません。受取人が相続人であれば、非課税枠も活用できます。

こうした特徴から、「あえて高額な生命保険に加入したい」と考える方もいるかもしれません。しかし、相続財産のほとんどが生命保険金という状況になると、以下のようなリスクが発生します。

★親族間トラブルの発生

相続人の中で1人だけが高額な死亡保険金を受け取り、そのほかの財産がほとんど残っていない場合、相続人同士でトラブルに発展する可能性があります。

たとえば、被相続人の配偶者と子ども2人(A、B)が相続人になる場合で考えてみましょう。子どもAが5,000万円の死亡保険金の受取人に指定されていて、相続財産が1,000万円あったとします。相続財産を法定相続に沿って分割した場合、配偶者は500万円、子どもA、Bはそれぞれ250万円ずつ受け取ることになるでしょう。子どもAには、取り分である250万円にプラスして死亡保険金の5,000万円が入ってきます。

配偶者が500万円、子どもAが5,250万円、子どもBが250万円という割合になれば、配偶者と子どもBが「不公平だ」と感じるのは当然のこと。子どもAに対する不満や、「死亡保険金も含めて遺産分割するべき」といった意見が噴出する可能性も高いでしょう。

もちろん、子どもAには死亡保険金5,000万円と遺産分割分の両方を受け取る権利があります。とはいえ、遺産分割の不公平感から親族間トラブルに発展すれば、埋まらない溝になってしまう可能性も高いでしょう。

★裁判沙汰になる恐れがある

不公平感の残る保険金受取と遺産分割は、裁判沙汰にまで発展してしまうケースも少なくありません。誰が何をどれだけ受け継ぐのか、裁判所が判断することになりかねないのです。

死亡保険金が受取人固有の財産というのは、あくまで原則的な考えです。「相続財産に対して死亡保険金があまりにも多い」という場合には、相続人の公平を保つため、遺産となる財産から受け取る金額を調整するよう認める判決が出る可能性も。亡くなった人から保険金を受け取った人への贈与があったとみなされれば、相続分の修正が行われるでしょう。

また、遺留分についても注意しなければいけません。相続財産額を減らす目的で生命保険に加入すれば、相続人が得られるはずの遺留分も少なくなります。生命保険加入の目的が「相続人の遺留分を減らすこと」と認められれば、その他の相続人に損害を与える行為とみなされるでしょう。裁判に負け、想定どおりの遺産分割ができなくなる恐れもあります。

どちらの場合でも、裁判で主張が認められるためには、さまざまな証拠が必要になるでしょう。裁判が長引き、心身ともに疲弊してしまう可能性もあります。

生命保険と遺産相続…リスクを回避するための対処法は?

生命保険と遺産相続…リスクを回避するための対処法は?
生命保険と遺産相続…リスクを回避するための対処法は?

受取人を指定できる生命保険は、遺産相続と相まって、思わぬトラブルにつながってしまう恐れがあります。トラブル予防のためにできる対処法を2つ紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。

★1.自身の気持ちを言葉にする

相続財産がほとんどない状態で多額の死亡保険金だけを受取人指定で残した場合、財産をほとんど残されなかった相続人にとっては、不満を感じることでしょう。だからこそ、「なぜそうしたいのか?」を、自分の言葉で丁寧につたえることが大切です。

相続人のうち1人にだけ多額のお金を残してあげたいと思う裏には、何かそれなりの理由があるはずです。その想いをしっかり届け理解してもらえれば、相続手続きがスタートしたあとに、トラブルになる可能性も低くなるでしょう。

★2.受取人を「相続人」に指定

相続財産がほとんどない状態で、多額の生命保険契約だけが残ってしまった…という場合もあるでしょう。「決して、特定の相続人だけに多額の現金を受け継がせたいわけではない」という場合には、生命保険の受取人を「相続人」に指定するのがおすすめです。

この場合、死亡保険金を受け取る権利は相続財産として扱われます。相続人全員が、法定相続分に沿って死亡保険金を受け取る権利を持つことになります。死亡保険金を含めた相続財産を平等に分けられるため、不満も出にくいでしょう。

生命保険と相続財産について基本的な知識を身につけよう

いざ相続が開始した際に、「相続財産がほとんどないものの、多額の死亡保険金だけが残されていた」というケースは少なくありません。死亡保険金は受取人固有の財産と判断されるため、遺産分割の対象になりません。このあたりの基本情報を踏まえて、自身の希望に沿った相続の形を実現しましょう。

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大嶋 晃

司法書士 プロフィール 福島県白河市生まれ。 旅行会社勤務の後、2012年司法書士試験合格、2014年に独立開業。 東京司法書士会千代田支部所属。 身近な街の法律家として親切丁寧な対応を心掛け、幅広い相続案件に取り組む。 不動産名義変更相談窓口「https://www.meigihenkou-soudan.jp/

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