会社を相続人以外に相続させたい!従業員への事業継承とは?

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会社を相続人以外に相続させたい!従業員への事業継承とは?
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経営者が終活を考える上で、忘れてはいけないのが会社の相続です。誰に会社を相続させ、どう事業継承を進めていくのか、事前に考えておくと良いでしょう。
会社の今後を考える上で、「身内ではなく従業員に相続させた方が良いのでは…」と思っている方もいるのではないでしょうか。今回は、相続人以外の従業員に会社を相続させ、事業継承する場合に知っておきたい情報や注意点をまとめます。

従業員への事業継承は珍しくない

従業員への事業継承は珍しくない
従業員への事業継承は珍しくない

少し前までは、「自身が育てた会社は、相続人である親族に継がせたい」と考えるのが一般的でした。しかし近年、少しずつ変化してきています。相続人以外の従業員を指名し、事業継承するケースが増えているのです。

先行き不透明な現代において、経営の安定化は極めて重要な課題と言えます。事業継承を機に経営が傾く会社は決して少なくありません。少しでもリスクを下げるため、またよりいっそう会社を成長させるため、「親族かどうかにかかわらず、本当に優秀な人材に任せたい」と考える方が多くなってきています。

少子高齢化による人材不足も、従業員への事業継承を増やす一因と言えます。「親族に事業継承したくても、該当する人材がいない」という理由で、従業員へ会社を残そうとするケースも増えているのです。

従業員への事業継承は、決して珍しいことではありません。事前準備をしっかり整えておけば、スムーズに代替わりできる可能性も高いでしょう。従業員に会社を相続させることを、従業員承継と言います。

従業員承継のメリット・デメリット

従業員に会社を受け継いでもらった場合、以下のようなメリットが期待できます。

・全従業員の中から経営者に向いた人材を選べるため、選択肢が広がる
・業務や社風に関する、自身の希望を反映させやすい
・従業員や取引先からも歓迎させやすい

会社を相続する人を「親族」に限らなければ、選択肢は広がります。今の体制をもっとも強く引き継いでくれるのが誰なのか、全社員の中から選択できるでしょう。また社内でしっかりと実績を積んだ人材であれば、周囲からの支持も集めやすいです。従業員をまとめる力を持ち、取引先からの信頼も得られます。

一方で従業員承継にもデメリットはあります。

経営者が自身の想いだけを考慮して次代を指名すれば、先代の経営方針から抜け出せない可能性も。これから先の時代にそぐわない経営スタイルに落ち着いてしまうリスクがあります。

また資金面での問題も表面化しがちです。従業員に会社の経営権を譲るためには、会社の株式の一定割合を、従業員に保有してもらうことに。十分な割合の株式を購入するための、資金力が求められるのです。経営者候補となる従業員を増やすためには、株式買取のための給与の増額や分割支払いによる契約など、具体的な対策を進める必要があるでしょう。

3つの方法から事業継承の方法を選択しよう

従業員に事業継承する場合、以下の3つの方法が考えられます。それぞれの特徴を踏まえて、自身の想いに沿った方法を選択してください。

★1.経営権のみの譲渡

従業員承継の1つ目の方法は、「経営権のみの譲渡」です。この場合、会社の株式は自分の手元に残ります。経営権は跡継ぎとなる従業員が握りますが、会社の所有権は手放しません。会社に対しても、一定の影響力を保てるでしょう。跡継ぎとなる従業員は、「雇われ経営者」として業務を担うことになります。

所有権を持ちつつ経営権のみを譲ることで、事業継承の準備をスムーズに進めていける可能性があります。また「従業員側が株式購入費用を用意する必要がない」という点もメリットと言えるでしょう。

一方で、前経営者が株式を保有したまま亡くなれば、会社株式は前経営者の個人資産として扱われます。遺産相続で相続人が一定割合の株式を取得すれば、経営権を握られてしまうでしょう。先々についても考えて、準備を進めていく必要があります。

★2.会社株式の有償での譲渡

2つ目の方法は、会社株式を有償で譲渡する方法です。前経営者が会社の株式を手放す代わりに、後継者となる従業員が対価を支払います。会社の経営権と所有権がともに後継者へと移るため、会社は完全に、自分の手を離れることになります。

後継者となる従業員に十分な資産がない場合には、以下の方法を検討してみてください。

・経営者と後継者が同意して、分割払いにする
・後継者が金融機関から融資を受ける
・後継者が株式を購入後、会社がその一部を買い取る

これらの方法以外にも、資金面での不安を軽減する方法はあります。専門家に相談の上、会社に合った方法を選択すると良いでしょう。

★3.会社株式の無償での贈与

前経営者自身が得る対価にこだわらない場合、「後継者に対して会社株式を無償で贈与する」という方法もあります。この方法を選択すれば、従業員の金銭的負担は最小限にしつつ、会社の所有権と経営権の両方を譲れます。

一方で、会社株式の贈与は、贈与税の対象になる可能性も。税負担についても考慮しつつ、慎重に話を進めていきましょう。

またもう一点忘れてはいけないのが、前経営者の親族との間で発生する相続トラブルです。先ほどもお伝えしたとおり、前経営者が保有する会社株式は、あくまでも個人資産です。本来であれば、法定相続人に受け継ぐ権利があるでしょう。「遺産のほとんどが会社株式であり、それを後継者に遺贈された」というケースでは、会社株式の遺贈が相続人の遺留分を侵害してしまう可能性が。遺留分侵害請求を起こされれば応じなければいけませんし、親族との間の溝は大きくなってしまいます。

こうしたトラブルを避けるためには、以下のような対処法を実践してみてください。

・経営承継円滑化法を利用し、事業継承に関わる株式の贈与を遺留分侵害額請求の対象外にする
・遺言書に、遺留分に配慮した内容を記す
・相続人に事業継承に関する希望や事情を伝え、理解してもらう

事前に準備を整えておけば、トラブルリスクは最小限にできるでしょう。

会社の相続|事業継承について考えよう

会社の相続|事業継承について考えよう
会社の相続|事業継承について考えよう

会社の相続は、経営者にとって忘れてはいけない終活の一つです。親族以外に会社を受け継いでほしい場合には、従業員への事業継承を検討してみてください。後継者候補を親族だけに絞らないことで、さまざまなメリットが期待できるでしょう。「相続人の中に会社を継げそうな人材がいない…」という場合にも、有効な方法です。

従業員承継をスムーズに進めるためには、事前準備が必須です。まずはどのような方法で事業継承をするのか、そのためにはどういった準備が必要になるのか、じっくりと検討してみてください。

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大嶋 晃

司法書士 プロフィール 福島県白河市生まれ。 旅行会社勤務の後、2012年司法書士試験合格、2014年に独立開業。 東京司法書士会千代田支部所属。 身近な街の法律家として親切丁寧な対応を心掛け、幅広い相続案件に取り組む。 不動産名義変更相談窓口「https://www.meigihenkou-soudan.jp/

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