遺族厚生年金の受取人が知っておくべき「失権・支給停止」に関する基礎知識

投稿 更新
Category:
家族

contents section

遺族厚生年金の受取人が知っておくべき「失権・支給停止」に関する基礎知識
シェアボタン
この記事は約10分で読めます。

一家の大黒柱として働いていた人が亡くなった際に、残された遺族の生活の支えとなるのが遺族厚生年金です。受給するためには一定の条件を満たす必要はあるものの、継続的に支給される年金に対して、「あって良かった」と感じる方は多いでしょう。
しかし遺族厚生年金には、「失権」や「支給停止」もあります。いったいどのような条件で失権や支給停止になってしまうのか、受取人として知っておきたい基礎知識を紹介します。

遺族厚生年金とは?

遺族厚生年金とは、亡くなった人によって生計を維持されていた家族が受け取れる遺族年金です。一般的な年金システムと同様に、遺族年金においても遺族基礎年金と遺族厚生年金の「2階建て」構造が採用されています。

遺族基礎年金の受給要件は非常に厳しく、「一定条件を満たした子ども」がいなければ、たとえ配偶者であっても受給できません。一方で遺族厚生年金の支給対象は、遺族基礎年金よりも広く、より多くの遺族の生活を支えてくれるでしょう。

なお遺族厚生年金は、生前に厚生年金制度に加入し、一定の条件を満たしている人が亡くなった場合にのみ対象になります。たとえば個人事業主やパートタイマーなど、生前に厚生年金制度に加入していなかった人が亡くなっても、遺族厚生年金は支給されません。

遺族厚生年金の「失権」「支給停止」とは?

遺族厚生年金の「失権」「支給停止」とは?
遺族厚生年金の「失権」「支給停止」とは?

遺族厚生年金には、「失権」や「支給停止」という制度があります。一定の条件に当てはまると、遺族厚生年金を受け取れなくなってしまうので注意してください。

「失権」とは、遺族厚生年金の受給資格を失うことを意味しています。残念ながら受給資格の復権はありませんから、遺族厚生年金の受給は二度とできなくなります。一方で「支給停止」とは、遺族厚生年金の支給が、一時的にストップされること。失権とは違い、状況が変われば支給停止が解かれ、再受給も可能となるでしょう。

どちらも「遺族厚生年金を受け取れない」という状況には変わりありませんが、今後について考えるなら、両者の意味合いは大きく異なります。もしも失権や支給停止の要件に当てはまってしまう場合、今後の対応について慎重に検討してみてください。

遺族厚生年金が失権する理由

では具体的に、どのような事態になると、遺族厚生年金の受給権を失権してしまうのでしょうか。主な事由は以下のとおりです。

・受給者が死亡したとき
・受給者が婚姻したとき
・受給者が養子になったとき(※直系血族及び直系姻族以外と)
・受給者が離縁し、親族関係が終了したとき
・子または孫が18歳の誕生日を迎え、最初の年度末に達したとき(障害等級が1級または2級の場合は20歳)
・子どものいない30歳未満の妻が、遺族厚生年金の受給権を取得した日から5年が経過したとき
・子どものいる30歳未満の妻が、30歳に達する前に遺族基礎年金の受給権を失い、それからさらに5年が経過したとき

失権に関するルールは非常に複雑で難しいもの。受給者本人が亡くなったときはわかりやすいですが、別の人と婚姻した際にも、受給権が失権してしまう事実を頭に入れておきましょう。これは法律上の婚姻関係だけではなく、事実婚や内縁関係においても当てはまります。

また、先ほどもお伝えしたとおり、一度失権した受給権が復活することはありません。婚姻によって受給権を失った人が、その後「離婚したから」という理由で再度遺族厚生年金を受給するのは難しいでしょう。

失権に関する条件は、受給者の立場がどういったものかによっても違ってきます。不安な点があれば、年金事務所に直接問い合わせ、相談してみるのがおすすめです。

遺族厚生年金が支給停止になる理由

遺族厚生年金は、一定の条件を満たすと支給停止になってしまいます。こちらについても、具体的な理由についてチェックしておきましょう。

・労働基準法で定められた遺族補償が行われるとき(死亡日から6年間の支給停止)
・受給権を持つ夫、父母または祖父母が60歳未満のとき(60歳に達するまでの間は支給停止)
・受給権者の所在が1年以上明らかでないとき など

このほかにも、遺族厚生年金の受給者となれるのは、基本的に「1名のみ」です。たとえば、夫が亡くなり、妻が受給権を有している間、子ども自身に対する遺族厚生年金の支給はストップされます。妻が婚姻や死亡により受給権を失権した場合、子どもの支給停止は解除され、年金の支払いがスタートする仕組みです。

また遺族年金には、「大黒柱を失った妻や子どもが路頭に迷わないように」という考えが、まだまだ根強く残っています。このため、夫や父母が受給権者になる場合のルールは、妻がなる場合よりも厳格です。60歳未満で遺族年金を受け取ることはできず、60歳に到達して初めて支給停止が解かれる仕組みになっています。

各種手続きに必要な書類は?

遺族厚生年金の受給権を失権する場合、10日以内に「遺族年金失権届」を提出する必要があります。遺族年金失権届は年金事務所で手に入るほか、インターネット上でも公開されていますから、印刷して記入しましょう。書類に記載するのは、失権の理由や失権日、住所・氏名・生年月日等です。

一方で、支給停止になっていた人が受給権を得て、支給をスタートさせたい場合も手続きが必要です。年金事務所に対して「遺族年金受給権者支給停止事由消滅届」を提出しましょう。これは、「これまで支給停止になっていた事由が消滅したこと」を伝えるための書類です。記載内容は、支給停止事由が消滅した理由や日付など。遺族厚生年金を受けられる人が複数人いる場合は、全員の名前を記載して提出してください。

また「消滅の事由」によっては、各種添付書類を求められます。自分がどの事由に該当し、具体的にどういった書類を添付すれば良いのか悩んだら、年金事務所に問い合わせてみてください。何をいつまでに用意すれば良いのか、丁寧に教えてもらえるでしょう。

失権や支給停止に関わる決断はぜひ慎重に

失権や支給停止に関わる決断はぜひ慎重に
失権や支給停止に関わる決断はぜひ慎重に


遺族厚生年金は、残された家族の生活を守る柱となってくれるでしょう。とはいえ残念ながら、半永久的に自動で支給されるわけではありません。自身の選択によっては、失権や支給停止になってしまう可能性もあるという事実を、頭に入れておきましょう。

特に婚姻や養子縁組は、失権や支給停止に関連しやすい決断です。現在遺族厚生年金を受け取っている場合、今後の収入の変化にも気を配りつつ、自身にとってより良い選択をしていく必要があるでしょう。具体的な行動を起こす前に専門家に相談すれば、「本来受け取れるはずのお金が受け取れなくなった!」といったリスクも防げるのではないでしょうか。

Category:
家族
シェアボタン

この記事を書いた人

writer

profile img

大嶋 晃

司法書士 プロフィール 福島県白河市生まれ。 旅行会社勤務の後、2012年司法書士試験合格、2014年に独立開業。 東京司法書士会千代田支部所属。 身近な街の法律家として親切丁寧な対応を心掛け、幅広い相続案件に取り組む。 不動産名義変更相談窓口「https://www.meigihenkou-soudan.jp/

related post

関連記事

  • 学資保険はいつ入る?子供の年齢から考えるおすすめタイミングとは

    学資保険はいつ入る?子供の年齢から考える

    子供が生まれたら、加入を検討したい保険のひとつが「学資保険」です。とはいえ何かと物入りな状況の中、「本当に学資保険は必要なの?」「子供の年齢がどれくらいの時に加入するのがベストなの?」と、疑問を抱えたまま、つい放置してしまう方も多いのではないでしょうか。 そこで今回は、そもそも学資保険とはどのような保険で、子供の年齢が何歳のときに加入すると良いのか、わかりやすく解説します。子供の将来のため

  • 婚姻中に親から相続した遺産は離婚時に財産分与の対象になる?知っておきたい基礎知識

    婚姻中に親から相続した遺産は離婚時に財産

    夫婦が離婚する場合に、行われるのが財産分与です。婚姻中に築き上げた財産を分け合うことを指しますが、「何をどこまで財産分与するのか?」で悩む方は少なくありません。今回紹介するのは、「婚姻中に親から相続した遺産」の取り扱いについてです。財産分与の対象になるケースやならないケース、頭に入れておきたい基礎知識を解説します。 相続した遺産は基本的に「特有財産」 相続した遺産は基本的に「特有財産

  • 万が一のときのために…子供に想いを届ける方法を紹介

    万が一のときのために…子供に想いを届ける

    生まれた子供の将来に備え、「できる限りのことをしておきたい」と思う方も多いのではないでしょうか。何事もなく、一緒に日々を過ごしていけるのが理想ですが、万が一のときのことも、考えておくと安心です。自身の想いを届けるための方法を紹介します。ぜひ参考にしてみてください。 生命保険に加入する 生命保険に加入する 自分に万が一のことがあったときに、心配なのが子供の教育費や生活費です。こう

  • 終活は何歳から始める?前向きな気持ちでできる進め方と注意点について

    終活は何歳から始める?前向きな気持ちでで

    終活は何歳から始める?前向きな気持ちでできる進め方と注意点について 誰にも必ず訪れる、人生最後の日。穏やかにその日を迎えるため、最近では多くの方が「終活」を行うようになりました。しかし、終活で取り組んでおきたい事柄は多岐に渡り、一朝一夕でできるものばかりではありません。 そこでこの記事では、終活を始めるのにメリットのある年齢や、終活でしておくべきことについてご説明します。残されたご家族

  • 中高年のための充実した終活ガイド ― 豊かな人生の締めくくりを準備しよう

    中高年のための充実した終活ガイド ― 豊

    60歳以上の中高年にとって、終活は豊かな人生の締めくくりを準備する重要なプロセスです。この記事では、中高年のための終活ガイドを提供します。家族や自身の未来を思いやりを持って計画し、準備するためのヒントやアドバイスを詳しく解説します。自分らしい終活を進め、大切な人々に感謝と愛を伝えましょう。 終活の意義と目的 終活の基本について理解しましょう。 1.1 終活とは何か 終活

  • 不動産の遺産分割はどうすれば良い?4つの方法と注意点

    不動産の遺産分割はどうすれば良い?4つの

    遺産分割の中でも、どうすれば良いのか悩みがちなのが「不動産」です。親族間トラブルを避けるためには、どう分ければ良いのでしょうか。4つの方法とそれぞれの注意点を紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。相続人同士、納得して手続きできる方法を見つけましょう。 1.不動産をそのままの形で「現物分割」 1.不動産をそのままの形で「現物分割」 現物分割とは、不動産をそのままの形で相続する

コトダマのバナー