
終活で遺産整理などを行っていると、返しきれない借金がある、ローンの返済が終わらないといった事態に気づく場合があるかもしれません。
もし借金やローンの返済が完済せずあなたが亡くなってしまった場合、返済義務は相続権のある子どもに渡ってしまいます。
子どもにそんな物を相続したくないと思う方に向けて、今回は相続放棄といった選択肢があり、負の遺産を相続させない方法を紹介します。借金やローン返済などが残っている方、必見です。
遺産相続をすると負の遺産も相続される

遺産相続といえば、現金や預貯金、不動産を思い浮かべるでしょう。それらは正の遺産と言われており、その逆の借金やローンなどは負の遺産といわれています。
遺産相続を行った場合、現金や預貯金だけ相続して借金などは相続しないといった選択はできません。相続をする場合は、正の遺産も負の遺産も相続しなければいけません。
まずは、どんなものが負の遺産と呼ばれるか知っておきましょう。
負の遺産と言われるもの
負の遺産と言われるものは主に以下の7つです。
- 金融機関などからの借り入れ(ローンやクレジットカードの未決済分など)
- ツケの未払い
- リース料
- 家賃(未払い分)
- 税金や健康保険料(未払い分)
- 損害賠償責務(交通事故などで支払い義務のある賠償金)
- 連帯保証人の立場
意外と知られていないのが、連帯保証人の立場ではないでしょうか。
自分や親が連帯保証人になっているか分からない場合には調べる方法が3つあります。
- 株式会社日本信用情報(クレジット会社や金融機関との契約内容、返済状況といった情報を管理している)
- 株式会社シー・アイ・シー(クレジット事業や携帯電話会社などの企業を会員としている信用情報機関)
- 全国銀行個人信用情報センター(銀行や信用金庫などを会員としている信用情報機関)
これらの場所に問い合わせてみましょう。
ただし、これらの場所に問い合わせても絶対に連帯保証人になっていないとは言い切れません。どうしても不安な場合は、相続放棄も視野にいれるとよいでしょう。
遺産を放棄しても受け取れるもの
遺産を放棄すれば、正の遺産も負の遺産も受け取れないと先ほど記載しましたが、一部例外があります。
- 死亡保険金(受取人が指定されているもの)
- 香典やご霊前
- 仏壇やお墓などの祭祀財産
- 葬祭費や埋葬料
- 死亡退職金(受取人が家族であるもの)
- 遺族年金や未支給年金
上記の6つは仮に遺産を放棄した場合でも受け取れます。
これらは亡くなった方の財産ではなく、残された家族のためのものとされてるからです。
相続されないもの
連帯保証人の立場が相続されるため、勘違いされる場合がありますが亡くなった方に対して個人的に認められていた権利や義務は相続されません。
- 養育費の請求権と支払い義務
- 婚姻費用の請求権と支払い義務
- 年金受給する権利(遺族年金や未支給年金は別)
- 生活保護を受ける権利
これらは相続されないので注意してください。
遺産を放棄するメリット・デメリット

実際に遺産を放棄した場合、どのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか?遺産の放棄を子どもにすすめる、決断する前に必ずメリットとデメリットの両方を知っておきましょう。
遺産を放棄するメリット
遺産を放棄するメリットは大きく2つです。
- 借金の返済義務がなくなる
- 相続争いに巻き込まれない
仮に、1,000万円の借金があり相続人が2人の場合は、1人あたり500万の借金を背負わなければいけません。
返済が遅れていた場合は遅延損害金の支払いも必要です。
遺産を放棄するのは借金などの負の遺産だけが理由だと思われがちですが、実は遺産争いに巻き込まれたくないといった理由も多いです。
元々家族と仲が悪かった、疎遠になっていて正直どうでもいいといった場合も、遺産を放棄すると遺産分割協議などに参加する必要がなくなります。
遺産を放棄するデメリット
次に遺産を放棄するデメリットですが、主に4つあります。
- 一切の相続財産を手放さなければいけない
- やり直しできない
- 遺産の放棄が認められない場合がある
- 相続順位が変わりトラブルになる可能性がある
遺産を放棄してしまうと、「この貯金分だけは相続する」といった選択はできません。
また、一度遺産を放棄する手続きを行い、受理されてしまうと今回亡くなった方の遺産に対する相続権は復活しません。
それだけではなく、遺産を放棄する手続きが完了していたとしても、亡くなった方の遺産を使用した、勝手に処分した場合は手続きが無効になる場合があります。
遺産の放棄が無効になれば、当然相続権が復活するため、負の遺産なども相続しなければいけなくなります。
最後に確認しておくべきなのは相続順位の変更です。
遺産の相続には優先される順位が決められています。
最優先は配偶者で次に実子となっていますが、相続を放棄した方の立場や状況によっては相続順位が変わります。
相続に関するトラブルを避けるために遺産を放棄したのに、逆にトラブルに巻き込まれてしまう可能性もあるので注意してください。
遺産を放棄する方法

実際に遺産を放棄したいと思ってもどのような手続きを行えばよいのかわからない方が多いと思います。ここでは、遺産を放棄する方法についてくわしく紹介していきます。
亡くなった方の住所地の裁判所へ
相続放棄する場合の相続放棄申述書は必ず亡くなった方の最後の住所地の家庭裁判所に提出します。申述書自体は裁判所でもらってもいいですが、家庭裁判所が指定する形であればネットから印刷しても問題ありません。
直接の提出が難しい場合は郵送でも大丈夫です。申述書に必要事項を記載し、以下の必要書類を用意します。
- 亡くなった方の除籍謄本(亡くなった方の戸籍謄本)
- 亡くなった方の住民票除票
- 相続放棄をするあなたの戸籍謄本
戸籍謄本と除籍謄本は本籍地にある役所に行くか取り寄せをする必要があります。
相続放棄の手続きは原則として相続の開始を知った時から3ヵ月となっています。それまでに必要書類を集めて、家庭裁判所へ提出または郵送しましょう。
必要書類が期限内に揃わない場合
必要書類がどうしても期限内に揃わない場合、とりあえず相続放棄申述書だけでも提出してください。その際に、戸籍謄本等はあとから提出する旨を書き添えておくと提出期限が過ぎてしまっても大丈夫です。
裁判所からの質問書類に答える
相続放棄申述書を家庭裁判所が受理すると、質問事項が書かれた書面が送られてくるので、回答して返送しましょう。
- 亡くなった方との親族関係
- 亡くなったと知った日
- あなたの名前で相続放棄の申し立てがされていると知っているか
- なぜ相続放棄するのか
- この申し立てはあなた自身の意思か
質問内容は家庭裁判所によって少し変わりますが、大筋は変わりません。当然ですが記載事項に嘘はないようにしましょう。
相続放棄申述受理通知書が届く
質問書類を返送し、特に問題がなければ相続放棄申述受理通知書が届きます。これでようやく正式に相続放棄が認められました。
仮に借金の返済などを迫られた場合は、相続放棄申述受理通知書を見せればそれ以上の催促はされません。必ず大切に保管しておきましょう。
これらの手続きがなければ正式に遺産を放棄したとはならない
家庭裁判所から相続放棄申述受理通知書が届くまでは、正式に遺産を放棄したとはなりません。相続放棄を宣言しただけでは諸々の権利は放棄できていないので注意してください。
生前に遺産の放棄はできない

終活で負の遺産の存在に気付いた、そもそも遺産を相続するつもりがなく、忘れない間に相続放棄の手続きをしたいと思っても生前には遺産の放棄はできません。
遺産とは人が亡くなって初めて発生します。生きている間はまだ遺産が発生していないため、放棄できません。
しかし、亡くなった方の除籍謄本以外の必要書類を用意するのは問題ありません。亡くなった時点で除籍謄本を取り寄せ、相続放棄申述書の死亡日の欄を記入して提出しましょう。
限定承認の選択も

負の遺産があり、すべてを相続したくないけどすべてを放棄はしたくないといった場合、限定承認を行う場合があります。それでは限定承認について紹介します。
限定承認とは
限定承認とは、相続した正の遺産の限度で負の遺産の相続を行います。
例えば、負の遺産が1,000万円、正の遺産が自宅(資産価値400万円)だった場合で説明します。普通に相続すれば自宅を相続できますが、同時に1,000万円の借金を背負わなければいけません。
相続放棄をすれば借金の返済義務はなくなりますが、自宅を手放さなければいけません。限定承認を行えば自宅の資産価値分の400万円を支払い、自宅を引き継ぐことができる場合があります。
仮に、負の遺産が400万円、正の遺産が1,000万円だった場合は、400万円を支払い600万円を相続できます。
限定承認をしないほうがいい場合
限定承認ではなく相続放棄をしたほうがいい場合は以下の3つです。
- 負の遺産の金額が多額であり正の遺産の方が圧倒的に少ない
- そもそも相続に関わりたくない
- 手続きにお金をかけたくない
相続放棄を行う場合は、自分たちで手続きが可能ですが、限定承認の場合は弁護士などの専門家に依頼するので弁護士費用が別途かかります。
限定承認をしたほうがよい場合
限定承認をしたほうがよい場合は以下の3つです。
- 遺産の内容は不明だが、プラスになるなら相続したい
- 負の遺産分をできる限り返済したい
- 負の遺産があるが遺産の中にどうしても相続したいものがある
このような場合は、相続放棄をしてしまうとすべてできなくなってしまうので、限定承認を選択しましょう。
限定承認はかなりややこしい
先程も少し触れましたが、自分で手続きができる相続放棄とは違い限定承認はかなり複雑なため専門家に依頼しなければいけません。
それだけではなく、1人でもできる相続放棄とは違い限定承認は相続人全員が同意していなければできません。
それだけではなく、弁護士や司法書士でも実際に限定承認の手続きを行った経験のある方が非常に少ないので、経験のある専門家を見つけるのが困難です。
便利な制度だと思われがちですが、かなりややこしいので選択する方はごく僅かというのが実情です。
まとめ:遺産を放棄するのも選択肢の1つに

いかがでしたか?今回は遺産の放棄についてくわしく紹介しました。
終活をしている時点で負の遺産の存在に気付いた場合は、すぐに子どもに伝えましょう。
遺産を放棄するのも選択肢の1つです。 遺産を相続するのか、放棄するのか、限定承認といった選択肢を選ぶのか考えておくように伝えておくとよいかもしれません。