生前贈与の「相続時精算課税」とは?遺産を受け取る際の注意点やデメリットも解説

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生前贈与の「相続時精算課税」とは?遺産を受け取る際の注意点やデメリットも解説
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将来の相続税負担を和らげるため、生前贈与を検討する方も多いでしょう。生きている間に財産を子どもや孫に渡してしまえば、相続財産を減少させ、相続税が発生するリスクも少なくできます。

とはいえ、生前贈与を行う場合に、考慮しなければならないのが「贈与税」についてです。生前贈与をしても贈与税が課せられないと言われる「相続時精算課税」をわかりやすく解説します。遺産を受け取る際の注意点やデメリットについても、注目してみましょう。

相続時精算課税とは?

相続時精算課税とは?
相続時精算課税とは?


生前贈与で相続時精算課税を検討する場合、まず「相続時精算課税とは具体的にどのような制度なのか?」という点について、正しい知識を身につけておく必要があります。相続時精算課税とは、贈与税の課税方式の一つです。

生きている人から別の人に財産を贈与した際に、課せられるのが贈与税です。「相続税を減少させるために生前贈与を」と考える方も多いですが、この場合、相続税ではなく贈与税が課せられてしまいます。こうした仕組みにある意味で「逃げ道」を提案してくれているのが、相続時精算課税というシステムなのです。

相続時精算課税制度を使った場合、特別控除額2,500万円までの範囲であれば、生前贈与を受けた時点で贈与税は発生しません。ただし生前贈与を行った人が亡くなれば、過去に生前贈与された財産も相続財産にプラスして、相続税を計算する必要があります。

たとえば合計で1億円の財産を持つ父親Aさんが、相続時精算課税制度を使い、息子Bさんに2,500万円を生前贈与したとします。息子Bさんは2,500万円を受け取った時点で贈与税を支払う必要はありませんが、将来Aさんが亡くなったときには、受け継ぐ財産に生前贈与分をプラスして、相続税を求めなくてはいけません。生前贈与後の財産に変動がなければ、相続発生時点で7,500万円の遺産を受け取り、生前贈与分を含めた1億円で計算された相続税を納めることになります。

相続時精算課税制度を使えるのは、生前贈与をする年の1月1日時点で60歳以上の方のみ。また生前贈与を受ける人は、贈与者の直系卑属である推定相続人もしくは孫のうち、贈与を受ける年の1月1日時点で20歳以上の方のみです。

相続時精算課税制度の注意点とは?


相続時精算課税制度は、一度の多くのお金を贈与できる、非常に便利なシステムと言えるでしょう。たとえば、「子どもや孫が事業を始めるため、援助したい」「住宅取得等資金の特例の範囲を超えて、住宅購入資金を援助したい」といった場合に、強みを発揮してくれます。とはいえ、相続時精算課税制度を利用した場合、税金が免除されるわけではありません。あくまでも「本来支払うべき税金を、先送りにしているだけ」と捉えてください。

また贈与税の課税方式の選択は、1度だけしかできません。1度でも相続時精算課税制度を選択して生前贈与を行えば、その後の贈与も、すべて相続時精算課税制度を利用したものと判断されます。2,500万円というのは生涯を通じた累計非課税枠であり、贈与額がこの数字を超えてしまえば、超えた分に対して20%の贈与税が課せられます。

たとえば60歳のときに相続時精算課税制度を利用して生前贈与を行ったとしたら、その後20年以上にわたって、贈与額を少しずつ積み重ねていく可能性も。その先の資金援助プランも見据えて、利用を検討するべき制度と言えるでしょう。

相続時精算課税では「年110万円まで」の非課税枠が使えない!

相続時精算課税では「年110万円まで」の非課税枠が使えない!
相続時精算課税では「年110万円まで」の非課税枠が使えない!

相続時精算課税制度のデメリットとして、必ず頭に入れておきたいのが、「年110万円まで非課税で贈与できる制度は2度と使えない」という点です。そもそも「年110万円まで非課税で贈与できる」というのは、贈与税の暦年課税制度に設定された基礎控除によるもの。相続時精算課税制度を利用するということは、2度と暦年課税制度を利用しないのと同意ですから、110万円までの非課税枠も失われてしまいます。

実際に、相続時精算課税制度を使って贈与をしたのちに、その事実を忘れて110万円までの贈与を行ってしまう事例は少なくありません。相続時精算課税制度を使って2,000万円を贈与した後に、その事実を忘れて年間110万円ずつ贈与を行った場合、わずか5年後には贈与税の支払いを求められるでしょう。

また暦年課税制度を利用していた場合、年間110万円までは相続税も贈与税もかからない計算になります。一方で相続時精算課税制度を選択した場合、年間の贈与額が110万円以内であっても、その分は将来的に相続税の対象になってしまうのです。「相続税の負担を和らげる」という目的で利用する場合、かえって逆効果になってしまう可能性もあるという点が、非常に大きなデメリットと言えます。

土地の生前贈与にも注意が必要


相続時精算課税制度のデメリットで、もう1点頭に入れておきたいのが「土地の生前贈与」についてです。相続時精算課税制度を使えば、不動産の生前贈与も可能。ただしこの場合、相続税で認められている「小規模宅地等の特例」の利用はできません。

小規模宅地の特例とは、亡くなった人が使用していた宅地等のうち、一定部分までであれば相続税評価額を80%まで減額できる制度のこと。この特例を使えば、土地や自宅に関しては、非常に少ない負担で相続できる可能性が高いでしょう。しかし相続時精算課税制度を利用した場合、減額されない価格で相続税が計算されます。余計な負担が発生する可能性があるのです。

こちらのデメリットも頭に入れた上で、相続時精算課税制度を利用した不動産の贈与については、慎重に検討する必要があるでしょう。税負担の軽減という目的だけを考えるなら、相続時精算課税による贈与財産からは除外するのがおすすめです。

相続税が0円なら利用のメリットは大!


相続税には「3,000万円+(600万円×法定相続人数)」という基礎控除額が定められています。この範囲内であれば、相続税が課せられることはありません。もちろんこの基礎控除は、相続時精算課税制度を利用した場合でも適用されます。

「単なる税金の先送り」とも言われる相続時精算課税制度ですが、法定相続人が1人で合計3,500万円の遺産を受け継ぐケースでは、「非課税で早く大金を受け取れる」というメリットが発生する可能性も。相続時精算課税制度を利用して先に2,500万円を受け取っても、残りの財産が1,000万円なら、相続税は課せられません。

相続時精算課税制度を利用しない場合、

・被相続人が亡くなった段階で3,500万円を受け取る
・2,500万円の生前贈与を受ける時点で、相応の贈与税を支払う

のいずれかを選択せざるを得ないでしょう。相続時精算課税制度によって、「税金の負担なく早い段階で親の遺産を引き継ぎ、活用する」という第3の選択肢が生まれるのです。

自分にとってのメリット・デメリットを検討し慎重な決断を


生前贈与を行う際の相続時精算課税制度を利用する際には、メリットもあればデメリットもあります。自分にとってはどちらの方が大きいのか、冷静に判断する必要があるでしょう。

・本当に今大金を受け取る必要があるのか?
・その他の非課税制度(住宅資金や教育資金)は利用できないか?

これらの点も踏まえて、ぜひ慎重に検討してみてくださいね。

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大嶋 晃

司法書士 プロフィール 福島県白河市生まれ。 旅行会社勤務の後、2012年司法書士試験合格、2014年に独立開業。 東京司法書士会千代田支部所属。 身近な街の法律家として親切丁寧な対応を心掛け、幅広い相続案件に取り組む。 不動産名義変更相談窓口「https://www.meigihenkou-soudan.jp/

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