近年、「遺言書を残して遺産トラブルを回避しよう」と考える方が増えてきています。自身が残した遺産を巡って、大切な人たちが争うとしたら…これほど悲しいことはありません。なんとかして回避したいと思うのは、当然だと言えるでしょう。
しかし実際には、故人が失くした遺言書をきっかけに、さらなるトラブルが発生してしまう事例も存在しています。遺産トラブルを防ぐのに有効なスタイル、「公正証書遺言」について、わかりやすく解説します。
なぜ遺言書を残しても遺産トラブルが発生するの?
終活を意識し始め、各種情報サイトをチェックしてみると、「遺産トラブルを予防するためには遺言書が有効」という情報を目にする機会も多いのではないでしょうか。確かに遺言書が残されていれば、故人の思いに沿った相続が可能に。親族間のトラブルを予防するため、一定の効果が期待できるでしょう。
しかし実際には、遺言書が残されていても、遺産トラブルに発展してしまう事例は決して少なくありません。その理由は以下のとおりです。
★1.遺言書が法的に有効と認められないから
遺言書にはいくつかのタイプがあり、いつでも好きなときに、自分の手で書き残せるものもあります。しかしこの場合、遺言書に必要な要件を満たしておらず、「法的に無効」と判断されてしまうケースも少なくありません。
遺言書が残されていても、法的に有効だと認められなければ意味がありません。相続人はあらためて遺産分割協議を行い、遺産相続の詳細を決定しなければならないのです。遺言書で遺産を多くもらえるように指定されていた人は、当然「故人の遺志」を尊重するよう求めるでしょう。一方で、その他の人は法定相続分に沿った手続きを求める可能性が高いです。法的に無効な遺言書によって、故人の遺志を確認できてしまうが故のトラブルだと言えるでしょう。
★2.遺言書に記された内容が遺留分を侵害しているから
法的に認められる形で遺言書が残されていた場合でも、油断は禁物です。その内容によっては、やはり親族間のトラブルが発生してしまう恐れがあります。中でも注意しなければならないのが、遺留分についてでしょう。
遺留分とは、相続人が相続財産の中から最低限相続できる財産のこと。たとえ「全財産を○○に譲る」という内容が残されていたとしても、その他の相続人は遺留分を請求できます。最低限の財産を相続できるとはいえ、「いったいなぜこのような遺言が残されたのか?」という点で、トラブルが発生する恐れもあります。
★3.遺言書に本人の意思が反映されているとは限らないから
被相続人が自分一人で作成し、自宅で保管されていた遺言書の場合、その内容の信ぴょう性がもとで、トラブルに発展するケースもあります。
・認知能力が低下した状況で、誰かに書かされたのではないか?
・すでに内容が改ざんされているのではないか?
もしも本当に、遺言の強制や誘導、改ざんといった事実があれば、そこに故人の遺志は反映されていないことに。その信ぴょう性を巡って、騒動に発展する事例も決して少なくありません。
公正証書遺言とは?トラブル回避に有効な理由
上で説明したようなトラブルは、遺言の残し方に工夫することで予防できます。ぜひ公正証書遺言に注目してみてください。
公正証書遺言とは、公証人関与のもとで遺言書を作成する方法を言います。作成段階から専門家に手を貸してもらえば、
・遺言書が法的に無効と判断されるリスクを防ぐ
・遺言の内容についても事前に専門家に相談に乗ってもらえる
・あとで内容が改ざんされる恐れがない
といったメリットが発生します。遺言書にはさまざまな種類がありますが、公正証書遺言は「もっとも確実性の高い遺言」と言われているのです。
公正証書遺言は、第三者である「公証人」が作成します。出来上がった遺言書は、公文書として扱われ、いざ遺言が執行される瞬間まで厳重に管理されるでしょう。遺言を残した時点での故人の「意思」が、争点になる可能性も低くなります。
ただし公正証書遺言を作成するためには、相応の手数料を支払う必要があります。また作成までには、それなりの時間がかかってしまうでしょう。遺言書を残したいと思ったら、できるだけ早く行動に移すよう注意してくださいね。
公正証書遺言の残し方や費用を解説

ではここからは、実際に公正証書遺言を残すための流れや費用をチェックしていきましょう。公正証書遺言を作成するための手順は、以下のとおりです。
1.公証人との間で事前打ち合わせを行う
2.証人になってくれる人を2人探す
3.証人2人と共に公証役場に行き、遺言書を作成する
4.同じ内容の公正証書遺言を3通作成し、1通を公証役場に保管する
公正証書遺言を作成する場合に、最初にやらなければならないのが公証人との打ち合わせです。公証役場に出向いたからといって、その場ですぐに遺言を作成できるわけではありません。遺言に残す内容など、事前の打ち合わせを済ませておきましょう。
また証人には、未成年や将来相続人になると推定される人は指定できません。また公証人の配偶者や、四親等以内の血族も指定できないというルールがあります。
信用できる人物2人に依頼するのが一番ですが、手間を省きたいなら専門家に依頼するのもおすすめです。事前打ち合わせや公証役場での手続きについても、専門家がしっかりとサポートしてくれるでしょう。遺留分についても、トラブルになりにくい遺言の残し方をアドバイスしてもらえるはずです。
公証役場では、公証人の本人確認や遺言内容の確認、公証人の筆記・読み聞かせといった手続きが行われます。遺言者と証人2名、さらに公証人が署名捺印することで、正式な遺言として認められるでしょう。
公証役場での手続きに必要な時間は、およそ30分前後です。また公正証書遺言を作成するためには、公証役場に手数料を支払わなければいけません。遺言の価格に応じて手数料の金額が変わってくるため、注意してください。
財産が100万円以下であれば手数料は5,000円です。一方で財産の価額が5,000万より上で1億円以下の場合の手数料は4万3,000円です。自身の財産の金額に合わせて、どれだけ必要になるのかあらかじめチェックしておきましょう。
遺産トラブルは少なくない!公正証書遺言で回避しよう

遺産相続について、「まさか我が家でトラブルなんて…」と考える方は少なくありません。しかし実際には、相続に関して割り切れない思いを抱く人は多いもの。非常に根の深い、親族間トラブルの原因になる可能性もあるのです。将来のトラブルを予防するために、ぜひ公正証書遺言についても検討してみてください。
作成時に手間はかかっても、「法律的にほぼ確実な遺言書が残せる」というメリットは非常に大きいと言えるでしょう。トラブル回避を目的に遺言書を残すのであれば、ぜひ積極的に検討してみてはいかがでしょうか。